2026年2月、60歳以上のお客さま向けサービス「Bright 60」の専用窓口に、自然対話型の音声AIが導入されました。
電話をかけると、番号選択のガイダンスはなく、すぐに“会話”が始まります。途中で話が変わっても、言い直しても構いません。AIが会話の流れを受け止めながら応対します。


この窓口で活用されているのは、株式会社Rechoが提供する自然対話型音声AI「Recho AI Voice Agent」です。定型的なメニュー選択に頼らず、お客さまの言葉から意図をくみ取り、文脈を踏まえて応答します。
高齢化が進む中で、金融サービスを「使える人」と「使いづらい人」に分けないことは、金融機関にとって重要なサステナビリティ課題です。電話という身近な手段で、誰もが等しく相談できる環境をどう守り、進化させるか──。


しかし、この挑戦は「AIに任せれば便利になる」という単純な話ではありません。試行錯誤の中で見えてきたのは、「AIと人は役割を分けるのではなく、協業すべきだ」でした。正解が定まっている案内や手続きの整理はAIが担い、正解が一つではなく、お客さまの状況や感情によって答えが変わる応対は、人が担う。その役割分担こそが、「電話の安心感」を守る鍵でした。


今回は、この取り組みをリードした妙田源也さんと若林文香さんにお話を聞きました。AIと人が役割を分かち合いながら、“話しやすい銀行”をどう形にしていったのか。その舞台裏を紹介します。

語る人:

SBI新生銀行
チャンネルサービス部 統括次長  妙田 源也さん
チャンネルサービス部 部長代理  若林 文香さん

※部署、役職はインタビュー当時

Ⅰ. 「もっと丁寧に対応したいのに」――電話の現場で感じていたジレンマ

━━まず、従来の電話窓口が抱えていた課題について伺いたいと思います。お客さまは、どんなところにストレスを感じやすかったのでしょうか。  
 

妙田さん
一番大きかったのは、やはり「待ち時間」だと思います。SBI新生銀行には年間で約30万件の電話が寄せられていますが、時間帯によってはどうしても集中してしまいます。 特にシニアのお客さまの場合、「ちょっと聞きたいことがある」というケースも多いのですが、つながるまでに時間がかかると、それだけで不安になってしまう。これはずっと課題として感じていました。  

若林さん
加えて、やっとつながった後も、用件によっては別の窓口への転送が必要な場合があり、そのたびに、同じ説明をもう一度お願いすることにもなってしまう。 お客さまからすると、「さっきも話したのに」という気持ちになりますよね。  

 

━━応対する側として、「もっと丁寧に対応したいのに難しい」と感じる場面もあったのでしょうか。  
 

若林さん
ありました。オペレーターは、お客さまの話をしっかり聞いて、丁寧に対応したいと思っています。ただ、電話が立て込んでいると、「もっと背景まで汲み取りたい」と思っても、次の電話が待っている。 特にシニア層のお客さまは、「ちょっと困っていて……」という入り方のことも多く、本来は一緒に話をしながら質問内容を整理していくのが理想ですが、時間に追われると難しい場面もありました。  

 

妙田さん
例えば、「口座を作りたい」というお問い合わせ一つとっても、店舗なのか、ウェブなのか、本人確認書類は何を持っているのかなど、確認すべきことがいくつもあります。 でも、お客さまは必ずしもその前提を意識せず、「とにかく口座を作りたい」という気持ちだけで電話をかけてくださる。そこを丁寧に確認していくには、ある程度の“余白”が必要なんです。  


若林さん
効率だけを考えれば、ウェブなどの別の手段に誘導する、という選択肢もあります。でも、それは「電話で相談したい」というお客さまの気持ちを置き去りにしてしまう。 だからこそ、「電話という手段を残したまま、どう改善できるか」を考えました。

 

Ⅱ. 「途中で話が変わっても、会話が続く」 自然対話型AI電話体験

━━そうした課題を背景に、今回の自然対話型音声AIの導入につながったわけですね。従来の音声ガイダンスと比べて、最大の違いはどこでしょうか。 
 

若林さん
従来のAI対話は、AI側の質問に沿ってお客さまが答えていく形式でした。自然対話型AIは、聞かれたことに答えるのではなく、お客さまが聞きたいことを聞けば良い点が大きく違います。 


妙田さん
質問の仕方を気にしなくて良く、会話の途中で割り込めます。人と電話で話すとき、「あ、そういえば……」と途中で話を挟むことがよくあります。でも、従来のシステムでは、それができなかった。今回の自然対話型AIは、会話の途中で言葉を挟んでも、ちゃんと受け止めてくれますし、「もう少しゆっくり話してほしい」といった要望に応じて話速も調整できます。そこは、体験としてかなり大きな違いだと思います。


━━それは、お客さまにとっても安心感につながりますね。
 
妙田さん
人はどうしても、複数の電話を受けていると記憶が混ざったり、確認が必要になったりします。でもAIは、今この電話で話している内容だけに集中できる。会話の流れを覚えていて、途中で話が前後しても、ちゃんと受け止める。そのことで、お客さまは「思いつくまま話して良い」と感じられるようになります。
 
━━なるほど。「正しく質問に答えるAI」というより、「会話を一緒に進めるAI」ですね。
 
若林さん
まさに、そのイメージです。
質問が整理されていなくても、AIが少しずつ輪郭を整えていく。結果として、用件にたどり着くまでの時間が短くなり、会話もスムーズになります。
 
妙田さん
シニアのお客さまに「操作を覚えてください」とお願いするのではなく、「いつもどおり話してください」と言えること。
割り込みができて、話を覚えてくれている。その積み重ねが、「電話で相談する安心感」を支えていると思います。
シニアのお客さまにとっては、「ちゃんと聞いてもらえている」と感じられることが何より重要です。機械的に進む会話ではなく、あくまで“対話”であることを意識しています。

Ⅲ. 「AIは、ときどき“頑張りすぎる”」──ハルシネーション(※)とどう向き合ったか

━━導入にあたっては、丁寧にPoC(概念実証)を実施されていますよね。どのような点を重点的に検証したのでしょうか。
 
妙田さん
「本当に会話が成り立つかどうか」です。
正確さはもちろんですが、それ以上に、「人と話している感覚を損なわないか」「違和感がないか」を何度も確認しました。
 
若林さん
特に意識したのは、文脈理解です。
質問が途中で変わったりしても、ちゃんと元の話題に戻れるか。そうした細かい部分を、実際の対話ログを見ながら検証しました。
 
━━想定外の出来事もありましたか。
 
若林さん
正直に言うと、ありました(笑)。
たとえば、「Bright 60はいつから始まったサービスですか?」という質問をしたときに、返ってきたのが、なぜかSBI新生銀行の株式のヒストリーだったことがあったんです。
 
妙田さん
私もあれは印象に残っていますね。
AIが「何かしら答えなきゃ」と、一生懸命になってしまった結果だと思います。
 
━━いわゆる、AIのハルシネーション(※)ですね。
 (※)AIが事実とは異なる情報や存在しない情報を、あたかも真実であるかのように、もっともらしく回答する現象


妙田さん
そうです。AIは、知らないことについて聞かれてそれが分からないときでも、沈黙するより知っている情報の中から「それらしい答え」を出そうとする。その性質は、PoCの中でも何度か確認できました。
金融機関として、お客さまに誤った安心感を与えてしまうことだけは、絶対に避けなければならないと考えました。
 
若林さん
銀行の案内では、「それっぽい答え」では困ります。
無理に答えにいかず、「有人窓口を案内する」「確認が必要である旨を伝える」応答になるよう、PoCの中で調整を重ねました。
間違った情報を自信ありげに伝えてしまうことが、一番避けなければならないリスクです。だからこそ、PoCでは「正しく答えられるか」以上に、「答えられないときにどう振る舞うか」を重視しました。
 
━━具体的には、どのような対策を取られたのでしょうか。
 
若林さん
一つは、回答範囲を明確に定義することです。
AIが対応するのは、あらかじめ銀行として確認・整理した領域に限定する。それ以外の質問が来た場合は、無理に答えにいかず、「有人窓口を案内する」「確認が必要である旨を伝える」設計にしました。
 
妙田さん
AIに「頑張りすぎない」ことを、きちんと教えるイメージですね。
何でも答えられるAIではなく、「答えられること」と「人に引き継ぐこと」をわきまえたAIであること。その線引きを、かなり丁寧に行いました。PoC後半では、誤った答えをしそうになったときに、「これはAIの範囲外ですね」「詳しくは有人窓口におかけ直しください」といった受け答えが安定してきました。
 
━━実は、このAI窓口に電話してみたのですが、質問によっては「その件にはお答えできません」という答えが返ってきました。

 

若林さん  「その件にはお答えできません」という返答も、AIが正確性を優先し、無理に答えにいかない設計を徹底しているからこそ生じるものだと言えます。
 
━━PoCを通じて、「これなら電話の安心感を損なわない」と判断できたポイントはどこでしたか。
 
若林さん
誤った答えをしそうになったときに、きちんと立ち止まれると確認できたことに加えて、文脈理解や会話の自然さも、実運用に耐えうるレベルだと判断できました。
「電話で話している感じ」を損なわずに、かつ銀行としての品質も守れる。その両立が見えたことが、導入を決断する最後の後押しになりました。

Ⅳ. AIと人は、どう補い合うのか

━━PoCでの検証を踏まえて、改めてお二人は、AIと人の役割分担をどのように考えているのでしょうか。
 
妙田さん
今回の取り組みを通じて、私自身が強く感じたのは、「AIと人は役割を分けるのではなく、役割を補完し合う関係」という点です。
AIは、情報を正確に伝えたり、用件を整理したりするのが得意です。一方で、お客さまが不安に感じている理由や、言葉にしきれていない気持ちを受け止めながら、その方にとっての「納得解」を一緒に考えることこそ、人が電話に出る意味だと思っています。
 
若林さん
実際に取り組んでみて、AIができること・できないことが、よりはっきり見えてきました。
AIが担うべき部分をきちんと設計すれば、人は本来向き合うべきところに、より多くの時間を使えるようになります。
 
━━「人にしかできないこと」に集中できる、ということですね。
 
妙田さん
そうですね。
例えば、「この手続きが不安で……」「自分の場合はどうなるんでしょうか」といった声には、マニュアルどおりの答え以上のものが求められます。
そこには、その方の背景や感情があります。そうした部分に耳を傾けることこそ、人が電話に出る意味だと思います。
 
若林さん
AIが一次対応や基本的な案内を担うことで、オペレーターは「急いで次の電話に出る」必要がなくなります。
結果として、一つひとつの相談に、より落ち着いて向き合える。これは、応対する側にとっても、とても大きな変化だと感じています。
 
━━今後は、どのような進化を目指していくのでしょうか。
 
若林さん
まずは、今回のBright 60専用窓口での運用を、しっかりと積み重ねていきたいと考えています。
そのうえで、年代やサービスを問わず、「電話で相談したい」と思ったときに、自然につながる窓口を広げていけたらと思っています。
AIは、定型的な案内や一次対応といった役割を担います。一方で、複雑性・個別性が高い相談やお気持ちへの配慮が必要な対応など、AIでは対応しきれない部分については、人が引き継ぐ想定です。
手続きそのものではなく、不安や戸惑いを受け止めること。その役割は、これからも人が担い続ける領域です。
 
妙田さん
デジタルに慣れている方もいれば、そうでない方もいます。
画面操作よりも、声で話すほうが安心できる方もいらっしゃる。
どの選択肢を選んでも、「相談のしやすさ」に差が出ないことが大切だと考えています。

━━最後に、この取り組みを通じて、一番伝えたいメッセージを教えてください。
 
妙田さん
AIを導入すること自体が目的ではありません。
お客さまが「ここなら話せる」「ちゃんと分かってもらえた」と感じられること。それを実現するための一つの手段が、今回の音声AIです。
人とAIがそれぞれの役割を果たすことで、これまで以上に“話しやすい銀行”に近づける。その責任を、私たちが引き受け続けることが大切だと思っています。
 
若林さん
効率や利便性だけでなく、誰にとっても無理のない接点をどう維持するか。安心して相談できる手段を残していくことは、私たちの大切な役割だと考えています。
そのひとつとして、「電話で話せる」という選択肢を、これからも大切にしていきたいです。