(第1部)現場の声から始まる、D&Iの実践プロセス
働き方や価値観が大きく変化するなかで、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)は、もはや一部の部署や専門領域だけのテーマではありません。
現場で働く一人ひとりの声に耳を傾け、その声をどう受け止め、どう形にし、どう次の行動につなげていくのか。その積み重ねこそが、組織の力を高め、未来のビジネスをつくっていきます。
本シリーズでは、SBI新生銀行グループにおけるD&Iの取り組みを、部会ごとの活動を通じて紹介しています。第2回となる今回は、2025年度のテーマに「働く人のエンゲージメント」を掲げる、法人D&I部会に焦点を当てます。
若手行員の声に耳を傾け、女性活躍のあり方を見つめ直し、社外との対話を通じて自分たちの立ち位置を問い直してきた法人D&I部会。そこにあったのは、完成された答えではなく、迷いや不安を共有しながら、現場の知恵で考え続けるプロセスでした。
多様な声が出会い、重なり合い、やがて組織やビジネスの力へとつながっていく。その一端を、ぜひ感じてください。
2025一年間の活動を支えるメンバーが集まり、それぞれの気づきや変化を語ってくれました。
第1部 語る人:
SBI新生銀行
ヘルスケアファイナンス部 川野邊 薫さん
プロジェクトファイナンス部 明戸 真優さん
法人事務部上席主任 片山 知美さん
サステナブルインパクト推進部長 平田 みずほさん
※部署、役職はインタビュー当時
若手行員の座談会(担当:川野邊さん、明戸さん)
法人D&I部会メンバーと若手との会。
若手が考えていること、価値観に寄り添う。また、若手どうしの部を越えたネットワーキング。
(左)明戸さん (右)川野邊さん
━━ 法人D&I部会では、3つの取り組みを進めています。
最初にご紹介するのが若手のエンゲージメント。 まずは、若手行員のみなさんとの座談会の背景からお聞きしたいと思います。川野邉さん、今回の座談会はどのような問題意識から企画されたのでしょうか。
川野邊さん
大きな背景としてあったのは、コロナ禍という特殊な状況下で入社した世代が増えていることです。対面での研修や雑談の機会が限られ、上司や先輩の働き方を「見て学ぶ」ことが難しいまま、社会人生活をスタートした方が多い。その影響が、少しずつ表面化しているのではないかと感じていました。
━━実際に若手のみなさんからは、どのような声が上がったのでしょうか。
川野邊さん
「同期との横のつながりが作りにくい」「他部署の人と話すきっかけがない」といった声が多くありました。特にコロナ禍入社世代は、リモート中心の環境が当たり前だった分、自分の立ち位置や成長の実感を持ちにくい。
また、「キャリアパスが見えにくい」「制度は説明されているけれど、実際にどう使われているのかが分からない」といった不安も聞かれました。
━━制度や仕組みそのものというより、コミュニケーションの不足が不安につながっている印象ですね。
川野邊さん
まさにその通りだと思います。強い不満というよりは、「なんとなく不安」「少しモヤモヤする」という感覚。でも、その“なんとなく”を言葉にできないままにしておくと、エンゲージメントは確実に下がってしまいます。
今回の座談会では、その曖昧な感覚を一つひとつ言語化し、法人D&I部会として共有できる状態にしたこと自体が成果だったと感じています。
━━明戸さんは、若手の話を聞いてどのように受け止めましたか。
明戸さん
最初は「若手特有の悩みを聞く場」という意識でしたが、話を聞くうちに、それだけではないと感じるようになりました。
コロナ禍でコミュニケーションが希薄になった影響は、若手に限らず、組織全体に及んでいますよね。若手の声は、その影響が一番分かりやすく表れている“サイン”なのだと思いました。
━━ご自身の立場とも重なる部分がありましたか。
明戸さん
はい。D&Iというと、「誰かを支援する側」と「支援される側」に分けて考えがちですが、今回の座談会を通じて、自分たち自身もそのダイバーシティの中にいる当事者なのだと強く感じました。
キャリアへの不安や、情報が届きにくい感覚は、立場が違っても多くの人が経験していることです。「若手の課題」として切り離すのではなく、「私たち自身の問題」として捉える必要があるのだと気づかされました。
川野邊さん
その認識は、法人D&I部会全体にも共有されていきました。若手のエンゲージメント向上を、個人の意識や努力の問題にしない。コロナ禍で変化した働き方や、コミュニケーションのあり方を含めて、組織の構造として考える。その視点が、今年度の部会の土台になっています。
━━現場の声を起点に、課題を言語化し、共有する。そのプロセスそのものが、D&Iの実践だと言えそうですね。
明戸さん
そう思います。声を聞いて終わりではなく、「なぜそう感じるのか」「私たちはどう受け止め、どう変えていくのか」を一緒に考える。その積み重ねが、エンゲージメントを高める第一歩なのだと思います。
川野邊さん
今回、若手のみなさんの声を聞いて改めて感じたのは、コロナ禍で失われていた「人と人とのつながり」を、意識的に取り戻す必要があるということでした。
特に5年目・6年目あたりの世代は、入社後しばらくの間リモート中心で過ごし、同期や他部署との関係づくりに十分な機会がないまま、キャリアの節目を迎えています。
━━その問題意識が、具体的な施策にもつながっていきましたね。
川野邊さん
はい。若手座談会で見えてきた課題を法人D&I部会で共有し、「この世代にとって、今どんな場が必要なのか」を議論した結果、5年目・6年目を対象とした研修の実施につながりました。同じ年代同士が集まり、悩みや考えを言葉にし、横のつながりをつくることを重視した設計です。法人D&I部会での検討が、現場の育成やコミュニケーション施策として形になった一例だと感じています。
明戸さん
「声を聞いて終わり」ではなく、ちゃんと次のアクションにつながっている点は、とても大きいですよね。
若手の不安を“若手だけの問題”として切り離すのではなく、組織としてどう支えるかを考えた結果が、研修という形で若手のネットワークづくりのサポートへつながりました。
女性活躍推進(担当:平田さん、片山さん)
リーダー手前の人がキャリアアップを考える上での障壁を取り除く
・リーダー手前のメンバーと法人D&I部会役員との座談会
・リーダー手前のメンバーと女性リーダーとの座談会
片山さん
━━ 続いては、女性活躍について伺います。法人D&I部会では、今年度は座談会等を通じて現場の声を拾う取り組みを行ってきたそうですが、実際に話を聞く中でどのような声があがってきたのでしょうか。
片山さん
女性活躍というと、「管理職比率をどう上げるか」という議論になりがちですが、現場から聞こえてくる声は、もう少し複雑だと感じています。
特に管理職手前の女性たちから多く聞かれるのが、「業務とライフイベントの両立が難しいと感じる」、「自分には管理職としての働き方は難しいと思う」、「下駄をはかせてもらって昇進したと思われるのはイヤだ」という声です。
━━かなり率直な声ですね。
片山さん
はい。座談会で感じたのは、時間的な制約があるからといって、決して仕事に対する意欲がないわけではないということ。むしろ真面目だからこそ、「自分はそのポジションに見合っているのか」と、必要以上に自分に厳しくなってしまう傾向があるように感じました。時間的なコミットがそのまま会社へのコミットと捉えられてしまうと、成果を出していても、「自分は十分に貢献できていないのではないか」と構えてしまう空気が生まれます。その心理的な壁が、前に進むことを難しくしているのだと思います。
その心理的な壁は、昇進の場面だけに限りません。たとえば、子育て中の女性が時短勤務やフレックスタイムを利用する際にも、「制度として認められていると分かっていても、どうしてもチームに迷惑をかけてしまうのではないか」と後ろ向きに考えてしまうことがあります。
平田さん
印象的だったのは、こうした心理的な壁が、本人の意欲や能力ではなく、評価のされ方や職場の前提によって生まれているのではないかという点です。「長い時間働けない=十分にコミットしていない」といった無意識の前提が残っていると、効率的に成果を出している人も自分を過小評価し、萎縮してしまうかもしれません。
━━制度が整っていても、気持ちの面で立ち止まってしまう、と。
片山さん
そうですね。制度があることと、「その制度を使っても大丈夫だ」と思えることは別です。
ロールモデルが少なかったり、同じ立場で悩みを共有できる相手がいなかったりすると、「自分だけが不安に感じているのではないか」と孤立してしまいがちです。
━━そこで重要になるのが、横のつながりですね。
片山さん
同じ思いを持った人が他にもいると分かるだけで、気持ちはずいぶん違ってきます。
不安を共有することは、単に気持ちを軽くするだけでなく、「自分だけが悩んでいるわけではない」と感じられること自体が、大きな支えになります。
また、同じ立場だからこそ出てくる本音もありますし、自分とは少し違う考え方や選択肢に触れることで、視野が広がることもあります。
━━一方で、横のつながりだけでなく、上下のコミュニケーションも重要になってきますね。
片山さん
そうですね。横の関係で安心して話せる場があることはとても大切ですが、それに加えて、今回の座談会のように管理者層と率直に意見を交わすことができる機会は非常に重要であり、中で話すことで、少しずつ視野が広がり、今後も継続していきたい取り組みだと感じています。こうした上下左右のコミュニケーションの積み重ねが、心理的な障壁を下げ、次の一歩につながっていくのだと思います。
平田さん
管理職の視点では、心理的な障壁を下げるために何ができるかを常に問い続ける必要があると思います。こうした上下のコミュニケーション機会は、「聞いて終わり」にするのではなく、一人ひとりの置かれている状況を知り、想像力を高める重要な機会だと感じています。個々の事情を踏まえたマネジメントは、画一的な対応に比べて手間もかかりますが、その積み重ねが結果として組織全体の力を引き出すことに繋がるのではないか─管理職自身がそうした想像力を磨き続けることは、これからのマネジメントにはますます不可欠になっていくと思っています。
━━管理職が現場の状況を理解し、想像力を持って関わることが前提にあってこそ、評価や機会のあり方も変わってくるのですね。そうした文脈で考えると、女性活躍は「特別な配慮」ではなく、「公平な評価と機会の話」として捉え直すことが大切ですね。
片山さん
はい。力を発揮した人が、ジェンダーや制約に関係なく正当に評価されることが大切だと思います。今回の座談会の中で、役員の「女性に限らず、また過度な配慮ではなく、普通にプライベートを大事にしながら仕事もしている人が、自然に昇進していく形が理想」という言葉が、とても印象に残っています。マネジメント層の方からそのような言葉を直接いただけたことは、とても心強く感じました。
平田さん
あらためて感じたのは、「公平さ」をどう担保するかは個人の努力ではなく、組織やマネジメントの役割ではないかということです。同じ評価軸を一律に当てはめるだけではなく、育児や介護など、人によって置かれている状況の違いによって機会が狭まらず、一人ひとりが力を発揮できるよう、制度や運用の側で調整していくことが重要です。当行のD&Iの取り組みも、一人ひとりの状況を踏まえながら公平な機会と評価を実現するという考え方を、より実践的に強化するフェーズに来ているのではないかと感じています。その前提が共有されてこそ、女性活躍は形だけで終わらず、組織全体のエンゲージメント向上につながっていくのだと考えています。
不安を口にすること。
迷いを共有すること。
それは、立ち止まるためではなく、次へ進むための一歩でした。
集まった現場の声は、社内にとどまらず、やがて社外との対話へと広がっていきます。
第2部では、その気づきがどのように外部と交わり、ビジネスの視点へとつながっていくのかを追います。