「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」という言葉が広がる中、私たちはその“実感”をどれだけ共有できているでしょうか。制度や理念だけでは語りきれない、現場の声には、働く人の数だけ異なる背景や想いがあります。
今回お届けするのは、リテール部門でD&I活動に関わる社員4人のリアルなストーリー。
それぞれの経験を通して見えてきた「今」を、率直な言葉で語ってもらいました。

―育休からの復職を経て、情報発信を続ける岩崎さん
―“知らなかった”から始まった井上さんの挑戦
―外資系での経験を経て、女性活躍の意味を問い直す田中さん
―長年の活動を通じて、“当たり前”を目指す根本さん

4人の語りは、異なる角度からD&Iの今を映し出しています。

(本稿は、リテールD&I部会メンバーの座談会を再構成しました)

語る人:

SBI新生銀行 
 上野フィナンシャルセンター  岩崎 美緒さん 
 藤沢フィナンシャルセンター  井上 拓海さん
 リテールオペレーション部  田中 皆子さん
 リテール戦略部  根本 聡さん

※所属、役職はインタビュー当時

§1 岩崎さんの場合
——育休を経て、再び現場へ。実感から生まれた“つながり”の大切さ

上野フィナンシャルセンターでコンサルマネージャーを務める岩崎さんは、2度の育休を経て復職。時短勤務をしながら、D&I活動にも積極的に関わっています。

「育休中に会社の情報が入ってこないことが、思った以上に不安でした。」

第二子の育休中に当行グループがSBIグループ入りし、社名変更をはじめ、会社の大きな変化が続いたことで情報の断絶を感じたといいます。

「育休中でも会社とつながれる仕組みができたのは大きな進歩。上司との定期的なコミュニケーションも復職後の安心感につながります。」

 

現在は、リテールD&I部会の情報発信チームの一員として、社内SNSで制度紹介やアンケート結果の共有などを定期的に行っています。印象的だったのは、リテール部門に従事する従業員の年齢・性別分布を調査した際、20〜40代女性の比率が低いという課題を認識したことです。
「この世代は結婚や出産などライフイベントが重なる時期。柔軟な働き方やキャリア支援が必要だと感じました」

時短勤務でマネージャー業務を担う岩崎さんは、「やりたいことはたくさんあるのですが、限られた時間の中で優先順位をつけて進める難しさがあります。こだわりたい部分もありますが、時間との折り合いをつけることが必要で、タイムマネジメントの重要性を痛感しています」と語ります。

 

それでも、「この仕事が好きだからこそ、できる限りのことをしたい」と前向きです。
「私自身、周囲の理解と協力があって今の働き方ができています。だからこそ、情報発信を通じて、誰かの不安を少しでも軽くできたらと思っています。」

 

岩崎さんの言葉には、制度の整備だけでは届かない“こころの壁”に寄り添う姿勢がにじみます。育休を経て復職した当事者ならではの実感が、D&I活動に深みを与えています。

§2 井上さんの場合
——“知らなかった”から始まったD&I。学びが広げる視野と共感

藤沢フィナンシャルセンターに勤務する井上さんは、2021年に入行した若手社員です。
「正直なところ、D&Iが何の略かも知らない状態で関わり始めました」と率直に語ります。
育児や介護といったテーマは未経験で、当初は漠然とした印象しかありませんでした。しかし、勉強会の運営に携わる中で、意義を実感するようになったといいます。
「制度を調べるなかで、“こんな便利な制度があったんだ”と驚くことばかりです。毎回が学びの連続で、通常業務では知り得ないような悩みや背景に触れることができています。」

当事者の声を聞くことで共感も芽生えました。
「育休中の社員が会社の情報を得られず不安になるという話を聞いて、なるほどと思いました。自分も連続休暇を取ったときに、仕事の状況が気になったことがあり、長期で休む方なら、なおさら不安になるのではないかと感じました。」

若手社員にはまだ浸透していない現状も感じています。

「同期や後輩に、“D&I部会ってどういう活動をしてるの?” と聞かれることがあります。自分もそうだったように、若い世代には、まだ「自分ごと」として実感できていないところがあります。」

そのため、井上さんは「まずは知ってもらうこと」が大切だと考えています。制度や活動の存在を知ることで、関心を持つ人が少しずつ増えていく。その積み重ねが、D&Iの“当たり前化”につながるのではないかと語ります。

「大げさなことを言うつもりはありませんが、理解を示してくれる人が一人でも増えていけばいいなと思っています。そのために自分もできることを続けていきたいです」

 

“知らなかった”から始まった井上さんのD&I活動は、今では社内の多様な働き方や悩みに対する理解を深めるきっかけとなっています。若い世代の視点から、D&Iの未来を支える一歩を、静かに、しかし確実に踏み出しています。

§3 田中さんの場合
——外資系からの転身と、現場目線で見つめるD&Iの可能性

現在、田中さんは、リテールオペレーション部に所属しています。2013年に外資系銀行から新生銀行(現SBI新生銀行)へ転職し、以来、業務の自動化や効率化にも取り組んできました。

「以前いた外資系の銀行では、育休や時短勤務は1歳までしか認められていませんでした。復帰後は残業が当たり前。子育て中でも働き方は、皆同じという雰囲気でした。」

 

SBI新生銀行に来て、時短勤務は子どもが小学校4年生まで(*)取得可能であると知ったときは驚き、女性が働きやすい制度の充実に感動したといいます。
(*)2025年12月現在、小学校6年生まで

D&I活動では、手話や介護に関するゼミの企画・運営など、幅広い取り組みを担ってきました。現在は勉強会チームの一員として、女性のキャリア構築支援を目的とした勉強会を運営しています。

「勉強会では、育児や介護を経験された社員や役員の方々に登壇いただいています。どの方も事前準備がとても丁寧で、質問に一つひとつ丁寧に答えてくださる。その姿勢に毎回驚かされます。参加者の皆さんが話からヒントを得て、自分のキャリアを考えるきっかけになっているのを感じます。」

参加者の満足度も高く、事後アンケートでは毎回高評価が寄せられています。田中さん自身も、運営側として大きな励みになっていると話します。

 

一方で、課題もあります。
「“女性のキャリア構築支援”という名前の勉強会なので、どうしても参加者は女性に偏ってしまいます。本来は性別や年齢、働き方に関係なく、もっと幅広い人たちが参加できるべきだと思うんです。」
田中さんは、D&Iの本質を「誰もが自分らしく働けること」と捉えています。

 

「当たり前に、ふさわしい人がふさわしい場所で活躍する。」
その視線は、女性活躍を超えた先―D&Iの未来に向かっています。

§4 根本さんの場合
—— “当たり前”を目指して。長年の活動から見えてきたこと

全国各地のフィナンシャルセンター勤務を経て、現在はリテール戦略部に所属する根本さん。D&I活動には、前身の「リテール女性活躍プロジェクト」から継続的に関わってきた、いわば“創設メンバー”のひとりです。

「ずっと関わっています」と笑う根本さん。その言葉の裏には、長年の経験と深い問題意識が込められています。

 

現在は、育休中でも社内イントラにアクセスできる仕組みや短期トレーニー制度の推進など、制度面での整備に力を注いでいます。これらの取り組みは、キャリアの“連続性”を支えるためのものです。
「育児や介護などで休職すると、会社の情報が得られず、復職後に不安を感じる方も多いです。人事異動や組織変更を知らないまま復帰するのは、心理的負担が大きい。だからこそ、希望者には休職中も社内イントラにアクセスできるようにし、会社との“つながり”を保てる環境を整えています。」

 

また、短期トレーニー制度については、キャリアの選択肢を広げるための場として重視しています。
「専門職として長く同じ業務に携わっていると、他部署の仕事を知る機会がなかなかありません。知識はeラーニングなどでも得られますが、やはり実際にやってみないと身につかないことも多い。短期でもいいから、まずは体験してみることが大切です。」

根本さんが特に気にかけているのは、自己理解と職務理解のギャップが、キャリアのミスマッチや離職につながること。だからこそ、トレーニー制度を通じて「自分に合った仕事」を見つけるきっかけを提供したいと考えています。

一方で、D&I活動の“伝わり方”については、課題も感じています。
「この活動に関わっていない人にとってD&Iがどんな位置づけなのか、まだ十分に浸透していないと感じます。営業店などでは業務が忙しく、活動に参加したくても難しいという声もあります。」
さらに、性別や年齢などの“区分”で議論すること自体が、逆にバイアスを生んでしまうのではないかという葛藤も。
「本来は、性別や年齢に関係なく、誰もが自分らしく働ける環境をつくることが目的。D&Iという言葉すら意識しなくても、それが“当たり前”になる世界を目指したいと思っています。」

制度設計者としての視点と、現場で働く人々への深い共感。その両方を持つ根本さんが、長年の活動を通じて実感しているのは、制度を整えるだけではなく、それを“使いやすく”“届きやすく”するための工夫と、意識の醸成の重要性です。

後記
—— “当たり前”になる日を目指して

4人に共通していたのは、「D&Iを特別なものではなく、当たり前にしたい」という想いでした。
制度を整えるだけでなく、それを“使いやすく”“届きやすく”する工夫。まだ当事者ではない人にも、知るきっかけを届けること。「まずは知ってもらうこと」 「誰もが自分らしく働ける環境を」
そんな言葉の奥には、誰かの不安に寄り添いたいという静かな優しさがあります。
D&Iは、制度だけではなく、人の想いで育つもの。“当たり前”になるその日まで、私たちの取り組みは続いていきます。